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事例紹介

Case

セミナー / 対談

光和コンピューター
第19回光和出版セミナー(トークセッション企画)
出版業界の転換期における情報システムのあり方

トークショー資料《PDF》

開 催 日 2008年12月2日(火) 13:30~15:30
会   場 日本出版クラブ会館
東京都新宿区袋町6
セッション 『出版業界の転換期における情報システムのあり方』
平川恵一氏(筑摩書房 取締役営業局長)
星野渉 氏(文化通信社 取締役編集長)
山本敏男氏(中央公論新社 コンピューター室長)
*50音順
柴崎和博(弊社 代表取締役社長)
参 加 者 70名
柴崎  本日は、お忙しい折、セミナーにご出席頂きありがとうございます。また、日頃、システムで業界にお世話になっており、この場をお借りして 御礼申し上げます。
 さて、出版業界は、本年度もマイナス成長が確実な情勢で3%を超える大きな落ち込みになる見通しです。産業界全体は、夏以降海の向こうから金融危機が襲来し、急激な景気後退局面に入りました。
 昨今は、業界もいよいよ転換期に来ていることを実感せざるを得ません。経営の第四の資源である情報システムが転換期にどう役割を果たすべきかが重要なことと思っております。
 本日は、出版VANの立ち上げを含め業界や社内におかれまして情報システムでご活躍されてこられた方々にお話を承り、今後のシステム構築のご参考になられることを念願して開催させて頂きました。
・・・  以下内容(敬称略)  ・・・
星野  まず、私から今回のテーマになっている「出版業界の転換期」についてお話させていただいてから、お二人に伺いたいと思います。

 出版科学研究所の今年1月から10月までの出版物の統計によると、これだけ景気が悪くなっているので当然ですが、売上高は前年同期比で書籍が△2.3%、雑誌が△4.5%の合計△3.5%となっています。前年、前々年と比べても落ち込み幅が大きくなっています。

 そして、もう少し長期的な視点で見たときに、私は業界に大きなリスクが二つあると思っています。

 一つは「雑誌の不振」です。

 11月に開かれた「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」は、サテライト会場を含めて1000人以上が参加しましたが、日本を代表するトップクラスの出版社の社長が2日間熱心に聴かれているという光景は、ちょっと前では考えられなかったことです。

 ここ数年来の雑誌の販売不振に加えて、今年は世界的な不況の影響で広告が非常に悪く、ダブルパンチとなっていると思います。特に、雑誌中心の版元は深刻な状況にあります。たぶん、これから発表される決算においても大手出版社は厳しいと思われます。

 雑誌の落ち込みはここ10年ほど続いていますが、今年の1月から10月の統計によると、販売金額は△4.5%ですが、販売部数は△6.7%と部数の落ち込みの方が大きいのです。この数字にはコミックス(漫画単行本)、ムック、週刊分冊(パートワーク)が入っているので、定期刊行誌だけを抜き出すとさらに厳しいと思われます。

 これに対して書籍は、販売金額は△2.3%ですが、販売部数は△0.9%と、この厳しい状況下では結構健闘していると言えます。

 ただ、雑誌の不振が大きいことによって、雑誌の収益力に依存してきた大手出版社や取次さん、それに中小書店の体力がどんどん落ちています。このことが大きなリスクの一つです。

 もう一つのリスクは「書店の破綻」です。

 書店の今年の状況は、出店は300店ぐらいで年内の閉店は1000店以上になると予測されます。

 昨年も書店がトータルでやはり1000店以上閉店したのに、売り場面積は広がっていました。それは大きい店がどんどん出店し比較的小さな店が閉店していたためです。今年違う点は、売り場面積の増加が少なくなってきていることです。

 その理由は、2001年頃から大量出店でシェア争いをしてきて、その中で体力が続かなくなった大手書店が出てきたこと。もうひとつは、巨大なショッピングセンターの出店が、そろそろ止まって、来年からは減るだろうと予測されていることです。

 このことによって、一つは、総送品量が減るのではないか、もうひとつは大型書店の撤退などで返品が増え、また、大きい書店の破綻があった場合は、取次のキャッシュフローに問題がでてきます。

 これは、戦後ほぼ一貫して安定して繁栄してきた産業を支えてきた取次システムという産業のベースとなっているシステムにとってのリスクだと言えるのではないでしょうか。

 実は、「雑誌の不振」も「書店の破綻」も取次にとってのリスクになります。そうしたリスクが現実になりつつあるわけで、今後、この仕組みがなかなか機能しなくなるのではないでしょうか。

 そのような状況下で、今出版社にとって大切なことは、まず、「商品をきちんと市場に到達させることができるのか」ということだと思います。

 それは、「市場をきちっと把握できるか」、「商品と市場に合ったチャネルを見つけられるか」、「本が出たことをどうやってお客に知らせるか」、「書店以外の チャネルの取引条件や支払い条件などに対応できるか」、「市場に合わせた商品開発ができるか」ということが問われることだと思います。

 書店の状況をみますと、今後は書店の仕入も変わってくると思います。たとえば、書店が見計らい配本でなくて、事前発注などを始めたときに対応できるのかなど、いろいろなことが出てくると思います。

 そういったときにはシステム面のサポートが重要ですし、これからは、そのことをある程度想定したシステムを作ることが必要だと思います。

 次に、システム関係の取材でいろいろな会社に伺って感じるのは、システム導入は、その会社の業務改善だということです。コンピューターは道具であって人間が 主体だと言われますが、実は人間によって非効率的になっている業務を、システム導入を期に改善しているところが成功しているのです。

 どこでも属人的な業務はなかなか改善できないものですが、それをシステム導入で直していくことが大切で、そのためにはシステムを理解していて強力なリーダシップを発揮する責任者の存在が大事であると感じます。

 では、前段が少々長くなりましたが、この辺でお二人の紹介をさせていただきます。

 筑摩書房の平川様は、日本書籍出版協会や日本出版インフラセンターの仕事にも従事されています。また、筑摩書房が会社更生法適用という大変な事態から再生していく過程で、情報システムが大きな力を発揮していたのではないか、その辺のお話もお聞かせいただければと思います。

 中央公論新社は日本の最大のメディアグループである読売グループの出版社です。山本様は入社以来システムを担当されて、出版VAN、共有書店マスタの立ち上げなどにも尽力されてきた方です。

 まず、自己紹介とシステム導入の背景や最近の思いなどを聞かせていただきたいと思います。では、山本さんからお願いします。

(左より)星野氏、山本氏、平川氏

山本  中央公論新社の山本でございます。入社して34年経ちます。そのうち28年間はコンピューター関係、6年間は書店営業として販売促進をしてきました。

 入社当時の1970年頃はコンピューターを導入したてで、取次請求とそれに付随する商品管理だけが動き始めていました。その後、1990年代に出版VANがスタートし、その流れに乗って進化してきました。

 VANが始まったときに、たしか全出版社の中で4番に在庫情報の開示を始めたと覚えています。そのVANあたりから、段々と今のようなイメージのコンピューターの使い方になってきました。

 今、一番最先端のシステムはWEB注文です。多い日で3000件ぐらいの注文がきます。これを電話で受注していたら大変なことで、出荷まで手間はほとんどからないなど大幅な省力化になっています。あとは書店からの売上データの分析がこれからのテーマになります。

中央論新社 山本敏男 コンピューター室長

星野  ありがとうございます。では平川さんお願いします。
平川  筑摩書房の平川です。コンピューターの歴史が私の入社からの歴史そのものです。1978年4月に入社し、ちょうどこの年の7月に会社更生法を申請しましたから、倒産前の3ヶ月間と、その後の30年間システムを見てきました。

 当社のコンピューター化は非常に早くて、1962年にシステム化(伝票発行機)をはじめ、本格的な汎用機導入は1967年でした。入社当時は販売、在庫、印税計算、経理、給与、原価計算と、編集関連以外は殆どシステム化されていました。

 現在使っている仕組みのベースは、1986年のDB化(バローズ)で、この時からいろいろ変わってきました。1989年には書籍にバーコードが付き、その後、1990ごろから出版VAN構想が始まり、その構想のときに業界の仕事に関わるようになりました。

 そのころ、在庫情報システムを作るにあたって、仕組みを作るのは簡単でしたが運用が大変でした。仕組みづくりは1997年に始めましたが、実際に実在庫とデータの誤差がほとんどなくなったのは2002年ごろです。

 入社当時の経理時代は、在庫は税務上のものだと考えていましたが、その後営業に移り、一度品切れを起こすと、なかなか書店から再発注がない、「品切れを起こすとその商品の寿命が終わる」と在庫管理の重要性を感じました。

 そのあたりから在庫の精度を上げようと、倉庫に出向いたりしながら徹底してやってきました。そのお陰で、ここのところの年2回の棚卸精度(実棚とコンピューター在庫差)は0.02%となっています。

 以前は電話受注のとき、台帳を見ながらやっていましたが、今はPCの画面上で処理し、コンピューターが動かないと電話にも出られないという状態になりました。

 最近は、セキュリティの階層化などを考慮し、編集の企画段階から商品化までの流れをシステム構築しています。現在、ほぼその開発が終わり、これからテスト運 用を始めていく段階です。これができると、一点の書籍に対しての出版権が何年あるのか、また、最近は日本から翻訳権を輸出するケースも随分出てきています ので、こういったものを管理できる新たなシステムが運用できるようになります。

 先ほど、山本さんから売上分析のお話がありましたが、中央公論新社とはレインボーネットワークの立ち上げから一緒にやってきました。

筑摩書房 平川恵一 取締役営業局長

山本  講談社が1981年に「窓ぎわのトットちゃん」を出したとき、スリップを回収し、ソータにかけデータ化して活用するDC-POSを開始しました。レインボーはDC-POSがうらやましくて、1社ではできないので10数社が集まって、スリップの日次回収を行いました。そのデータを分析すると、非常に面白い結果が出ました。そのころが、スリップデータの分析のスタートでした。

 当時、我々はその統計値を「レインボー値」と呼びました。分析の結果、本によって書店での売れ方が違うのだということが分かってきました。

 調査店は、たしかDC-POSが50店ぐらい、レインボーは37店で、サンプル数が少なかったのですが、スリップデータをもっと集めて何とかしなければいけないということで、共同でやっている利点に目をつけて、月次のスリップ回収システム「S-NET」を作って回収書店を拡大しました。現在はPOSデータを収集する「Pネット」に移行していますが、そのデータを使ってさらに分析を進めたら面白い結果が出るというのが私の考えです。

星野  売上分析の話に入っていますが、DC-POSが先行し、レインボーネットワークができて、その後、出版VANと続きました。ちょうどそのころ、出版業界で「インフラ」という言葉が使われるようになり、その後、急激に発達し、おそらく版元にとってのシステム利用も随分変化してきたと思います。

 筑摩書房では、単品販売管理を手作業の時代に始められ、コンピューター化し、それによって90年代に会社の更正に結びつけられた。さらに、その後にそれまでになかった大ベストセラーを連発させたという話がありますね。

平川  その通りですが、以前と違うのは重版を非常に早いタイミングで判断できるようになったということです。

 最近ですと、紀伊國屋書店の「Publine」や日本出版販売の「WIN」データなどに係数を掛けると、ほぼ全体の状況が分かるようになっていますが、当時は分かりません。以前はマーケットの情報が分からないので、いくつマーケットに投入していくつ売れているのかを知るために書店に電話をして聞いたりしていました。

 マーケットの市中在庫を見ていく、そして売れ行きのベクトルが上を向いているのか、下向きなのかということを判断して重版をかける。そのことがレインボーネットワークから始まった分析手法というところです。

 レインボーのときには10数社集まって分析の勉強会をしました。当時はまだ硬めの本が多く、文庫や新書などは書店の選び方が違うので、いろいろな書店で定点観測ができてなんとかできました。

 初速の売れ行きデータの精度を上げていくということや、今後どう動いていくのかが重要でしたが、DC-POSでも、同じ著者や同じ傾向の本でも必ずしも同じ動きにはならないということでした。なかなかそこまでは難しいということです。

星野  基本的には刊行してからの動きを追うことになるのですね。
山本  日次データは出てからの動きをみるために使います。月次データは新刊配本やランク設定に使うといった切り分けをしていますが、ただ、今後は日次データを新刊配本に活用できないだろうかと考えています。

 たとえば、新宿の紀伊國屋書店と山下書店の西口店などがいい例ですが、本の売れ行き傾向が違います。紀伊國屋書店は全体量がものすごく多いですが、新刊に関しては山下書店も強いですよね。

 ですから、全スリップの回収比率で配本しても山下書店西口店は本が足りないわけです。新刊の売れ行き傾向を見るために日次データを活用し、配本を決定しよう というアイディアです。実際にどのようにデータを抽出して分析していくかはこれからの課題ですが、今のところ考えているのはそこです。

星野  売れ行きを見て追加配本をするということですか?
山本  そうではなくて、その傾向の新刊が売れる書店を見つける。たとえば、やわらかめの本なら多めに配本するといったことです。紀伊國屋書店は なんでも多く売れますが、やわらかめの新刊だと山下書店西口店が結構負けないぐらい頑張ったりします。そういった傾向を日次データによって全国的に探そうということです。
星野  先ほど、平川さんも、たとえば同傾向ものや同じ著者であっても、なかなか一緒にならないという話しがありましたが、その辺はいかがですか。
山本  平川さんが言われたのは、売り出したあとの話ですね。この本がどこまで伸びるのかということですが、販売データを分析することで、同じようなベクトルを持った商品を選び出して、重版のタイミングをみつける精度が上がりました。100%あたることはないので、ベテラン営業マンの感や経験がまだまだ生きてくることがあると思いますが、同じ傾向の本を探すといったことはコンピューターがすぐに答えを出してくれます。
平川  大失敗がなくなりましたね。ロスがないことが大きいですね。
星野  講談社でDC-POSを作られた工藤義之さん(現・静山社取締役)は「初版を小さく作る勇気が持てるようになった」とおっしゃいました。データを把握できるようになったことで、最初は少なく作って売れ行きを見て追加していけばよいのですね。

 そういう販売データはどのように取り込んでいるのでしょうか。

平川  いま、取り込みデータは、日次店は200数店をPネットでみています。重版は当社の倉庫から出ていく勢いと、書店店頭の動きから判断しながら計画していきます。あと、返品の時期を捉えながら、少し書店が返し始めたときには抑えます。それから、日販などの出版共同流通やトーハンの桶川SCMセンターが稼働したことによって、返品の返ってくるスピードが早くなっていますので、その分、待つことができるようになりました。昔だと1ヶ月ぐらい経たないとなかなか戻らず、取次の滞留期間がありましたが、今は2週間ぐらいになっていますので、その分、読みやすくなっています。
星野  中央公論新社では販売データをどう活用されていますか?
山本  やっぱり、紀伊國屋書店「Publine」データと日販の「WIN」のデータでは傾向が違うんですね、投資は大変ですけれども、硬い本は「Publine」のデータを見て、ノベルス系、やわらかい本は「WIN」のほうが予測しやすいですね。
星野  POSデータは月次という話がありましたが書店管理もされていますね。
山本  その辺は、今後の課題です。
平川  同じです。
山本  営業時代、出荷調整をしていたときもありますが、結局書店の顔が全部わかるはずがないので、コンピューターなら自動調整ができるだろうということですが、将来的に80点取れる調整ができればいいのではないでしょうか。誰がやっても80点取れる、これは出版社の営業業務にとっては大きなことで、その辺を自動的にできればよいと思います。
星野  平川さんはいかがですか。
平川  そうですね、販売データを使っているのはパターン配本、配本の一番の基礎資料ですね。ただ、このデータには、今でもスリップをまとめて 送ってくる書店もありますので、その辺は営業マンの判断でランクを変えています。やはり、データだけでなく、営業マンが歩いた情報を元に修正を加えるとい う形でパターンを組んでいきます。
星野  筑摩書房はほとんど指定配本ですね。
平川  そうです、独自のパターンに基づいて配本しています。今までは取次にパターン表を持ってもらっていましたが、来年ぐらいから、データでやり取りしようという話をしています。そうすると、新刊に関しては完全指定配本が期待できます。
星野  時代の先取りですね。伺っていて、出版VAN以降は、営業とシステムが密接に連携してきたように思います。お二人とも営業も経験されて、システムを担当されてきましたね。
平川  最初コンピューターの管理は総務部で行っていて、その後、経理部に移り、VANが始まって、取次とのオンラインの打ち合わせなど営業中心で行いました。やはり、出版社は本を作って売ることが一番ですから、大企業のようにシステム部門を独立して置くよりは、業務に密着しているところに置く方がいいと思っております。
星野  システム管理部署の変化は、出版社の仕事がどう変化してきたかということの現れですね。

 最近、取次も随分変わったという印象を持っていますが、どのようにご覧になっていますか。

平川  現在までの取次との仕組みは、物流主体ですね。物を早く発注して早く届けることをずっとやってきて、それ以外の請求関係などはまだ行われていない状況です。

 ただ、物流に関してはトーハンの桶川ができて、ほぼ、トーハン・日販とも同じスタートラインに立ったと思います。仕組みに関しても、通常の銘柄別発注など、 両社とも統一フォーマットで動くようになりました。最近は直受注など、出版社で受けた注文をデータ化して取次に送信し、取次の在庫と連携して出荷するやり かたも始まっています。この発展形に商品付きという方法もあり、搬入の前日にデータを送って、翌日に商品を搬入することによって、取次は、商品をそのまま ソータにかけられるし、出版社は、スリップの差込作業がなくなります。こういう仕組みが、日販、トーハンとも動いています。

 このように、物流のほうは、やるべきことはほぼ終わりつつあり、これからは、それに参加する出版社が増えることです。

 ただ、最近、数社と勉強会をしていますが、倉庫会社からの搬入などで仕組み上難しい問題もあるようですし、あと、VANを使うにあたってのコスト的な問題などをどうしょうかということがあります。

 今後はやはり、受発注の次は請求関係ですね。ここを何とかできないかと話し合っています。

山本  直受注の話が出ましたが、書店から受注して、それをデータ化しVANを通じて取次に投げて、それに現物もつける。それは出版社にとっては大変なような気がしますがその辺はいかがでしょう。
平川  実際に作業している現場の声を聞きますと、スリップを差し込む手間よりデータ入力の方が効率がよいとのことです。
山本  もうひとつ、現物をつけない方法もありますね。
平川  「物無し」も一度やりましたが、荷割れしてしまいました。10個頼んで8個届いてあとのものはいつ来るのか分からないと書店が困るので、一時止めていましたが、日販から「物付き」でやりましょうという提案があり、「物付き」という新しい仕組みができました。ほぼどちらも同じ形で動きますので今はそれを使ってやっています。
星野  それは、梱包するのですか。
平川  梱包はしません。トーハンはオリコンで日販さんはバケットですね。
星野  以前、王子流通センターに伺ったとき、出版社が手書き短冊などで入れてきたデータのない商品の入力作業をしている人が100人以上いました。基本的に物事は発生現場で処理するのが正しいと思うのですが。
平川  先ほど山本さんが言われたように、どうして出版社でやるのか、という話はありますが、基本的に当社では、「書店の店頭に早く届けるための 仕組みであれば構築する」ということを考えています。トーハン、日販の説明では早くなるということですから、やっています。もう一点は、取次のほうで注文 の追跡システムができたこともあります。
星野  取次や書店以外への直販や書店以外のルート・チャネル、その辺の対応はどう考えていますか。
山本  うちの場合、読売グループに入りまして、新聞販売店に対する売上がばかになりません。実際に販売店向けの企画を作って、販売店ルートでお客さんに売ることもやっていますし、結構意外なヒットを生んだことがあります。

 たとえば、元々あったコミックの『日本の歴史』を販売店向けに作りまして、6冊のパックにして商品化したら結構売れました。第2弾までうまくいって、第3弾で陰りが出て、第4弾目で止めましたが(笑)

平川  冒頭の星野さんのお話にもありましたように、書店ルートのほか、それ以外のルートを開拓して、読者のいるところに商品を持っていくことを、来期やっていこうと思っています。
星野  小学館がICタグを付けた責任販売企画「ホームメディカ」を先週発売し注目されていますが、取次の出荷現場は1品種複数条件に対応しておらず、大変だったようです。取次は一つの商品に一つの定価の仕組みでしか動いていなかったことが要因です。
山本  新刊配本中心の仕組みですからね。そういう細かなところに対応してもらわないと、これから先はいろいろなシーンがでてくると思います。
星野  版元側として、いろいろなルート・チャネルに対応していく準備はできているのでしょうか。
平川  一つの本に対して複数の正味ということは現在ないですね。このような形のものが出てくるようになれば考えていかなければなりませんね。

 ICタグですが、一つにはコストの問題と、100%マーキングにならないと使い物にならないと思います。

 今回のように単発の企画には使えると思いますが、バーコードも普及まで10年以上かかりましたので、どうやって進めていくのか、あるいは、本当に効果的なのかを考える必要があります。

 書店店頭での万引き防止や商品管理のために導入するのであれば、書店が付けて、それに対して何らかの協力金などで支援していく方法が普及しやすいと思いま す。メーカーで付けるのか、卸で付けるのか、販売店で付けるのか、いずれにしても費用はかかりますので、どうやって吸収するかが課題です。

星野  出版倉庫流通協議会がオランダで視察した書店では、自店のために手数料を払って卸でICタグを付けてもらっていたそうです。

 日本でも、特定の書店に納品するものには全てタグを付けて、棚卸など管理の効率化を図ることは可能ではないかと思います。初めから全体最適を図ろうとすると、莫大なコストと大変な時間がかかってしまいますから、部分最適を進めていく方法もあると思います。

平川  レコード・CDのように、初回配本に関しては正味が違うとか、それに対して返品許容枠を少ししか取らないなど、委託販売の限界ということ を先ほど、星野さんもおっしゃいましたが、たしかに委託制度を変えることは非常に難しいと思いますが、もう少し運用面を柔軟に考えることができるのではな いかと思います。
星野  委託システムを続けるのが難しくなってくるのではないかという思いがあります。返品のロスを吸収できる余裕がないと、たぶん厳しいです ね。最近は大手取次の経営者も半分冗談めかして、「いいかげん委託の仕組みをどうにかしませんか」ということをパーティの席などで発言しています。

 ところで、山本さんが先ほどおっしゃった販売店ルートでの販売は、グループ内での流通ですか。

山本  そうです。代金回収も読売の販売店が代行してくれます。
星野  たとえば、他の版元が使いたいときはどうしますか。
山本  個別に交渉してください(笑)
星野  この辺で、会場の方々からご質問がありませんか。
質問  くろしお出版の岡野です。既刊本、たとえば地味なロングセラーなどがありますが、平川さんの「品切れは即商品の寿命である」という話は印象的でした。

 そういった、ロングセラー、既刊本をいかに売っていくかというような視点で、平川さん、山本さんの今までのご経験からなにかヒントはありませんか。

山本  既刊のデータ分析ですが、商品の月別動向を分析したところ、今は絶版になった「くらしの設計シリーズ」というムックの『カレーの研究』は、1年の中で2回ピークがあることが分かりました。1回は夏でもう1回は正月でした。「おせちにあきたらカレーよね」ということでしょうが(笑)、実に見事に二つの山がありました。それによって品切れ対策をするための明確な指示が出せました。

 それに類することが季節商品の既刊本のなかには結構あります。中公新書に『理科系の作文技術』という名著がありますが、これも3月に明確な山がありました。就職時期ですね。これは、配本管理に関しての助けになったという二つの事例がございます。

平川  需要予測は、新刊、準新刊、既刊で、3ヶ月サイクルで見ないといけないもの、半年でいいもの、1年でいいもの、というそれぞれの括りをもっていて、本によって、どこにピークがあるのかを見ています。

新刊であれば、直近のデータを見ながら、出庫の勢いを見ていき、今の在庫だと何日間持つ、あるいは改装までの期間でここが在庫の注意点だというサインを出して改装を掛けていく。あるいは重版の検討に入る。

また、既刊本は1年のサイクルを過去3年間見ながらピークを探していく。それによって、年間の必要在庫を割り出して、足りなくなれば重版をかけます。

たとえば、ちくま文庫の『思考の整理学』は、昨年2月ぐらいから売り伸ばし始めました。それまでもロングセラーで18万部ぐらい売りましたが、盛岡のさわや書店の松本さんという担当が書いたPOPで「知らない間に売れるんですよ」ということを聞いて、そのPOPをもらい、必ず1日1冊売れる「魔法のPOP」とネーミングして、他の書店で仕掛けて売り始めました。結果的に全国展開して1年間で30万部売りました。

書店を訪問したときに売り場の方と密に話をしながらなにかヒントになるものを持ってきて、少しずつ展開する。在庫の管理面では、需要予測、それから実際に商品を動かすということ。やはり営業マンの足というとことではないでしょうか。

星野  ありがとうございます。マーケットの近いところに情報があるということだと思います。

 在庫管理ですが、筑摩書房はきめ細かいとお聞きしていますがいかがですか。

平川  在庫管理は、たとえば、新刊を出して1ヶ月後ぐらいにだいたい売上がわかりますので、そこでいらないものは、トーハン・日販は返品現場で断裁をやっていますので、こちらからデータを渡して、返ってこないようにします。それでも、ほかのルートから戻ってきますので、調整断裁という形で、年に3回くらい見直しをしております。

 それと、期末に向けて絶版断裁します。新刊がだいたい年間で350から360点出ますので、ほぼその分を断裁します。

星野  編集部門のシステム化はいかがでしょうか。
山本  「書籍台帳」と言っていますが、企画段階からその台帳に登録して、企画決定会議を通って商品化されるまでの進行を管理し、発生する編集費用が直接原価に反映するようなシステムを使っています。

 ただ、これは重たいので、光和コンピューターにお願いして来年以降変えていこうと思っています。基幹のデータとの連携はきちんとしなければいけませんが、現場が使うものなので、編集現場の提案型でないといけません。

平川  編集の仕組みは同じですね。ただ、作るにあたって、最初から完璧なものはないので、組み替えながらというイメージで作ってきました。97年にウインドーズサーバーにしましたが、このときに開発をお願いしたところと話したのは、システムは生き物だから、長くて5年、基本的には3年目から見直しを行い、5年目にはまた次に変えるということです。
星野  システムの変更と、システム会社を選ぶポイントについていかがですか。
平川  システムの移行当初は古いシステムに愛着があり、必ず文句を言われるので、その時だけは耳が聞こえなくなります。(笑い)

 システム会社を選ぶポイントは、基本的にはこちらからなにをしたいのかを明確に言う、それを翻訳するのがシステム会社ですので、我々がなにをしたいのかを聞いて、よい提案をしてくれることがポイントだと思います。

星野  山本さんその辺はいかがですか。
山本  まあ、運ですね(笑)

 私は各システム会社とよいお付き合いをしてきました。運は冗談にしても、ポイントはこちらの対応の仕方にあると思います。一番仕事を知っているのは現場の担 当者です。ですから、ポイントはここだということをきちんと説明し、それをきちんと受け取ってくれないシステム会社はだめです。噛み砕いてシステム化して くれるシステム会社がいい会社だと思います。

星野  最近お客さんが本を探す場所が変わってきていると思いますが、どういったプロモーションが有効でしょうか。
平川  以前は雑誌広告、あるいは、新聞広告がメインでしたが、今、効かなくなってきています。新聞広告をしたからといって「Publine」のデータが跳ね上がるかと言うと、そうでもない。ここのところ、ブログから火がつくケースも随分でてきています。どこで火がついたのかを「Publine」で見ると、年齢層が30から40代はだいたいインターネット系、それより高いところでは、たぶん店頭のPOPといった形になってきていると思います。

 本当に新聞広告に変わるものはなんだろうといってもなかなかない。どうやって広告を使うか、今のところ、どこの新聞が効くのかをデータから判別し、次にブログとの連携ですね。あとは、テレビですが、最近、NHKで始まった「私の一冊 日本の百冊」で紹介されて跳ねるものもありますね。

星野  アマゾンの「中身!検索」や、Googleのブックサーチなど、著作権の処理が問題にされていますが、探す側から考えると、今は多くの場合、サーチエンジンで検索するわけですから、お客さんが探しているところに掲載しなければしょうがないのではないでしょうか。
平川  「中身!検索」に関しては当初アマゾンの契約書に問題があったので、当社は参加しなかったのですが、つい最近、契約書の内容が合意できたので契約することにしたようです。
星野  そろそろ、まとめに入りたいと思いますが、これからの課題と今後のテーマについてお聞かせください。今度は平川さんからよろしいですか。
平川  システム面からいきますと、システム間の連携について、簡単なようでなかなかできない部分があります。今は厳しい時代なので、月次決算を すぐ出すことによって、キャッシュフローベースで先々の販売計画、あるいは生産計画を修正していく必要があると思います。現在でも粗くはやっていますが、 もう少しオートマチックに精度の高いデータが見えるよう、システム間の連携を強めていくことがこれからの課題です。
山本  システムを作ると、先ほど誰でも80点取れると言いましたが、逆の言い方をすると誰でも80点しか取れなくなってしまう。システムは構築されたときから陳腐化が始まるのですが、それより先に人間の陳腐化が始まるのです。コンピューターがないと仕事ができなくなってしまう。

原理原則に基づいて構築したシステムの中身がわからなくなってしまう。ここがジレンマですね。これからの人にも、先輩達が培ってこられた出版の技術をずっと持ち続けていってほしいと思います。

星野  それこそ、お亡くなりになった田中達治さん(元筑摩書房取締役営業局長)が弊社座談会のとき、「僕らが今まで作ってきたPネットやVANなどを、若い人は当然のように使っている。なんの目的でこの仕組みを作ってきたのか知らないまま使っているということは、自分にとって大変不安である」と言われました。
平川  本当にその通りですね。先ほど、山本さんが言われたように、コンピューターは出来上がってしまうと中が分からないのです。なぜ作ったか、どういう仕組みで動いているのかが分からないまま使っている。それは年寄りが言い残していかなければいけませんね。
星野  そうですね、田中さんは『どすこい出版流通』(ポット出版)という本を残してくださいました。ただ、これからも新しい変化がどんどん起きますので、若い人たちが次のものをきちんと作っていくことを期待したいと思います。

 本日はありがとうございました。

以上

 

セミナー風景(参加頂いたお客様に深く御礼申し上げます)