株式会社筑摩書房
社内情報を活用するプラットフォーム「INPRO」構築
出版システム
株式会社筑摩書房
(文化通信 2023/7/25 掲載)
左から坂本取締役、増田専務、総務部でシステムを担当する海老原勇氏
(左)ウクライナ戦争 / (中)しかもフタが無い / (右)85年生まれ、キム・ジヨン
株式会社筑摩書房
創 業 | 1940年6月18日 |
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従業員 | 79名 |
資本金 | 7,350万円 |
代表者 | 喜入冬子 |
所在地 | 〒111-8755 東京都台東区蔵前2-5-3 |
電話 | 03-5687-2693(総務部) |
株式会社筑摩書房はこのほど、株式会社光和コンピューターと共同で書誌情報や在庫情報など社内で発生したデータを活用する情報プラットフォーム「INPRO」を開発。販売情報やパブ情報などのデータも収集し、ロングセラーの版を重ねながら事業を継続するためのERP環境を構築している。
同社は1940年に創業し、かつては個人全集など重厚な出版物で知られたが、1985年にちくま文庫、1992年にちくま学芸文庫、1994年にちくま新書を創刊し、現在は年間300点強の新刊のうち8割程度をペーパーバックが占める。
文庫は創刊当時から定価が1000円を超えるような古典的定番タイトルも多数含まれる学芸文庫をはじめ、ちくま文庫も『宮沢賢治全集』『シェイクスピア全集』など長大な作品をラインナップしており、ロングセラーになる作品を中心に構成する。
販売面でも、紙スリップ収集の時代から、書店の販売データを集めて単品ごとの売れ行きを把握し、自社倉庫での在庫管理と小口ットな重版を重ねる手法を構築。部数が限られる作品でも、ある程度の価格を設定し、稼働点数5000点余という多くの既刊在庫を長期にわたって販売していく出版スタイルを確立してきた。
「80年代後半から90年代に、重厚長大から一般向けに大きくシフトチェンジしたことにより、当社の規模でも一定の成功を収めることができたと思います。2022年度は巣籠の反動もあり厳しい環境でしたが、新書で『ウクライナ戦争』(小泉悠)、文庫で『しかもフタが無い』(ヨシタケシンスケ) や、文庫化した『82年生まれ、キム・ジョン』(チョ・ナムジュ) といった商品がけん引して売上を支えることができています」と増田健史専務取締役は話す。
情報資産いかすERP構築目指す
基幹システムは汎用機が一般的だった90年代から、 システム会社とWindowsサーバーを使ったシステムをスクラッチで開発し、販売・物流などの業務を支えてきた。しかし、商品マスタや物流システムがかつての「出版VAN」の仕様に準拠していたことや、データ加工や帳票作成が独自にできる環境であったことから業務が属人化する傾向もあり、システムのリプレースを検討。
2018年に大宮にあった自社倉庫をやめて、株式会社昭和図書に物流業務を委託したことで、独自の物流システムは不要になったことや、販売管理など従来の業務システムは継続して使うことができるため、ERPシステムの導入ではなく「業務システムで発生するデータを資産として有効にいかすERP環境を構築することを目標にしました」と坂本誠取締役経理部長・システム管理者は話す。
それまで情報交換程度だが20年以上のつき合いで信頼感があった光和コンピューターに相談。まず課題があった印税システムを導入して信頼を深め、ついで光和コンピューターERPシステムの知見を得てイントラシステムである「INPRO」を開発した。
「INPRO」では書誌マスタの管理から開始し、日本出版インフラセンター(JPO)の出版情報登録ンター(JPRO)への登録も、光和コンピューターのJPRO支援サービス「K-PRO」と連携して実装している。
JPROに直接つながないのは、「当社のみでは業界の急激な変化に即座に対応するのが困難。光和さんには同じような事情を抱える出版社のハプとなり、課題解決へ導いてくれることを期待したい」(坂本取締役) との考えからだ。
「INPRO」は知的創造を意味する「intellectual production」の略。今後は書誌情報にとどまらない様々な情報のプラットフォームに発展させ、情報を統合(integration)し、さらには、革新・創造(innovation)につなげ、アイデアや発想がうまれることを期待している。