株式会社クルックブックス
創業1年余で電子書籍20点を刊行 一人出版社支える「PUBNAVI」
出版システム
株式会社クルックブックス
(文化通信 2024/9/3 掲載)
売れ筋の『閣下がお探しの令嬢は私ですが、見つかるわけには いきません!』(著者・富樫聖夜/イラスト・Ciel)、
『愛する 人は他にいると言った夫が、私を離してくれません』(著者・ 春日部こみと/イラスト・炎かりよ)、
『公爵は仮初めの妻を逃 がさない』(著者・藤波ちなこ/イラスト・鈴ノ助)
安本氏
株式会社クルックブックス
代表者 | 安本千恵子 |
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設 立 | 2023年3月7日 |
株式会社クルックブックスは2023年3月に創業した一人出版社だ。刊行するのは女性向けTL(ティーンズラブ)小説の電子書籍。すでに20タイトルを発売しているが、当初から株式会社光和コンピューターと株式会社メディアドゥが提供するクラウド型電子書籍管理システム「PUBNAVI」を導入し、売上や著者への原稿料・印税管理を行うことで本作りに専念できているという。
同社は2023年7月から「ルーニカノベルス」のレーベルでTL作品の刊行を開始。創刊3点を始めとして、今年8月時点で20タイトルを発売している。
代表の安本千恵子氏は、大学卒業後に広島県を中心に書店を展開する株式会社フタバ図書に入社し、約3 年間、書店員として洋書や児童書、芸術書を担当したのち、出版社の株式会社イースト・プレスに転職。
当初はアルバイトとして一般書の編集に携わったが、「物語を作りたい」という思いから、それまで同社にはなかったWeb小説の書籍化企画を提案。2007年に個人サイトで人気を博していた『華鬼』(著者・梨沙)をカズキヨネ氏(当時、デザインファクトリー株式会社所属)のイラスト付きの小説として刊行。この作品が大ヒットしたことから、女性向けファンタジー小説レーベル「レガロシリーズ」を立ち上げた。
当時はまだ四六判サイズのイラスト付きの小説は少なかったが、安本氏は書店員時代の経験から文芸書コーナーにイラスト付きの作品を展開できれば読者を引き付けられると考え、企画を温めていたという。「著者とイラストレーターに、それぞれファンがいたため相乗効果で売れました」と安本氏は振り返る。
その後、『華鬼』は映画化、舞台化、ゲーム化と多メディア展開され、他社の文庫にも納められるロングセラーに成長。安本氏は「レガロシリーズ」の編集長を務めたのち、TL系小説レーベル「ソーニャ文庫」も立ち上げ編集長を務めるなど女性向けの小説で本作りのキャリアを積んだ。
電子書籍化で創業容易に
自ら起業した理由について安本氏は「前職でレーベルの立ち上げや多メディア展開などいろいろな経験をさせていただき、出版社を立ち上げられるのではないかという気持ちを持つようになりました」と述べる。
加えて、I T の発達によって安本氏が不得意とする経理業務などの負担を軽減する「PUBNAVI」といったシステムが登場したことや、ここ数年で出版業界の環境が大きく変わり、参入障壁が下がったこともあった。
そして、何よりTLの分野も電子版で読まれるようになったことが大きかった。「紙の本だと書店営業が必要です。一人で編集しながら営業するのは厳しい。しかし電子書籍ならネットでのプロモーションが中心になるので一人でも可能だと考えました」という。
紙の出版物で創業しようとすれば、取次会社との口座開設や、書店との直接取引、在庫管理のための倉庫会社との契約などハードルは高い。電子書籍の場合も電子取次との料率交渉などはあるものの、紙の出版に比べれば労力と金銭的な負担は少ない。その分、書き手への還元に回したいと安本氏は考えている。
システム導入で編集に注力
安本氏は、電子書店でフェアを組んでもらいやすくするためにも、レーベル開始後、早い段階である程度の作品点数を積み上げる必要があると考えていたため、経理業務については創業時からシステムを導入したいと思っていた。そのため、起業に向けて探すなかで知った「PUBNAVI」の導入を決めた。
「PUBNAVI」は電子取次などからの売上報告データをそのまま取り込めば、著者の印税が自動計算され、銀行へのオンライン振り込みや支払通知のメールも簡単な操作で行うことができる。
「すでに刊行点数が20点になり、10人以上の著者への印税計算が3か月ごとに発生し、それ以外にも、小説とイラストの原稿料や校正料などの支払いのために振り込みが発生しますが、システムのおかげで作業が短縮でき、編集に集中できるのがありがたい」と安本氏。
さらにサポートも「質問するとすぐに返事をもらえますし、途中で新規の書店と取引が始まった時もその書店用のシステムを用意してくれるなど迅速に対応してもらえるのでストレスがありません」という。
TLはコアなファンが市場を支えているため安定している一方で、参入も多く刊行点数が増え、ファンに作品の存在を知らせることが難しくなっている。そのため、安本氏は今後、SNS広告、電子書店での広告、作品のコミカライズなどのプロモーションにも取り組んでいく考えだ。