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事例紹介

Case

デジタル・オンデマンド

JAGAT page2015 カンフォレンス
出版社のための小ロットビジネスの可能性
-オンデマンドサプライチェーン構築の試み-

新聞記事の内容《PDF》 A4資料《PDF》

出版ERPシステム
JAGAT page2015 カンファレンス
(文化通信bBB 2015/3/2 掲載)

JAGAT page2015 カンフォレンス『出版社のための小ロットビジネスの可能性』
バネリスト 蓬田勝氏(講談社)
酒井敬男氏(ビジネス教育出版社)
大森真樹氏(山梨日日新聞社)
浴野英生氏(光和コンピューター)
モデレーター 星野渉氏(文化通信社)

 日本印刷技術協会(JAGAT)は2月4~6日、東京・豊島区のサンシャインシティコンベンションセンターで「page2015」を開催したが、その中で開かれたカンファレンス「出版社のための小ロットビジネスの可能性一オンデマンドサプライチェーン構築の試み」では、文化通信社・星野渉編集長のコーディネートで、講談社・業務局・蓬田勝業務第二部部長兼デジタル製作部部長、ビジネス教育出版社・酒井敬男社長、山梨日日新聞社・.大森真樹コンテンツ事業局出版部長、光和コンピューター・浴野英生事業企画室リーダが、プリントオンデマンド(POD)の取リ組みや可能性などについて話し合った。各氏の発言要旨を紹介する。

◇◇講談社◇◇ ■蓬田勝氏(講談社)

◇ふじみ野DSRを開設

 当社は埼玉県ふじみ野にデジタルショートランの工場を持っています。PODには「ショートラン」と「ブックオブワン」の2種類あることを前提にお話しします。

 講談社ふじみ野DSR(Digital Short Run)工場には、ヒューレッド・パッカード社とミューラー・マルティニ社製品によるインクジェット印刷から製本まで一貫してできるラインを導入しています。300~800部が最適な機械で、日産5000部ぐらいで稼働しています。

 導入の経緯は、ひとつは重版がだんだん小ロット化して、オフセットだと原価が上がってしまうためでした。そのため、製造にあたってのポリシーは、オフセツトと限りなく同品質のものを作るということです。

 ビジネスモデルは、講談社にとっては製造原価の削減、特に4色の少部数のものはインクジットで刷ると非常にコストが安くなるので、いままでできなかったことにチャレンジできます。

 もうひとつ非常に大きいのは、出版社にとって課題と なっている倉庫代、流通管理費といった在庫管理コストの削減です。

 これによって、いままでは一定部数の販売が見込めないと重版ができなかった本が、少ない部でも重版できるようになることで、良い本をできるだけ長く残すことができるため、読者にとっても著者にとってもメリットがあります。

◇導入コストは多岐にわたるメリットを考えて◇

 現実的にはこれによって劇的にコストが下がって、非常に得しているというわけではありません。利益モデルは、1冊ずつに印刷代・製本代を課しており、結果としてオフセットで刷るよりは原価が5~10%以上安くなるくらいの製造費を付加しています。

 稼働率が充分に上がるまでは、製造原価や倉庫代や廃棄の削減分もメリットと考え、導入コストのクリアを目指しています。当社が内製を始め印刷業を行おうということではありません。

◇オフセットと同品質目指すのか◇

 今後、稼働アイテムが増加した場合、また、1アイテムを1冊ずつ作るような「ブックオブワン」に対応するためには、いろいろなシステムが必要になります。

 そして、DSRでオフセット印刷と同じ品質を目指すのか、品質やカバーなどに拘泥しすぎずDSRが一番生きる方法を考えるのか、どちらを選ぶのかを考えてなくてはなりません。

 特に、オフセットで作った本の重版に利用すると、こだわりの強い編集者や著者の場合、説得することが高いハードルになります。

◇「ブックオブワン」は電子書籍の発想で◇

 「ブックオブワン」は日本で始めた会社もありますが、電子書籍の発想で作った方が良いと思います。

 電子書籍の製作を手がけてみて、読者は必ずしも従来の紙の本でなければならないとは考えてません。残すという意義も大切だと感じました。

 電子書籍を作ったときにも、紙の本と同じでなければならないという意見が多くありましたが、どう頑張っても100%同じにすることはできません。ならば、電子書籍の良さを生かすべきです。PODに関しても、同じように考える必要があると思います。

 「ブックオブワン」を考える場合は、紙の書籍ですが、電子書籍の経験と発想からスタートすべきだと考えています。その上で、「ブックオブワン」を電子書籍に次ぐ「第3の書籍」にしなければならないというのが私の個人的な提案です。

 PODは「Print On Demand」の略称ですが、たとえば「Paperback On Demand」と定義してはどうでしょうか。

 紙の書籍、電子書籍、PODの三つの形で書籍が市場に流通すれば、読者にとっても著者にとっても有意義なことが多いのではないかと思います。電子書籍を紙の書籍の8掛けほどで買う人がいるのですから、カバーがないPODが1冊注文で従来の本より少し安く売られていたら買う読者がいる、と想定して作るということです。さらに、電子書籍だけで配信された作品を紙で読みたい人のために提供することもできます。

 これを実現するためには、流通や取引条件、製造コストなどいろいろなことを考えなくてはなりません。タッチポイントとして大切な書店にも加わっていただきたい。著者とも一つの作品で同時に三つの形の契約をすることが必要でしょう。

 その流れができれば、いまの機械の技術をもってすれば、ほぼ問題なく製造・流通できると思います。解決すべき課題はたくさんありますが、これができれば電子書籍に次ぐ「Paperback」という新しいマーケットを創造する可能性があるのではないでしょうか。

◇◇ビジネス教育出版社◇◇ ■酒井敬男氏(ビジネス教育出版社)

◇究極的には在庫無しの経営目指す◇

 当社は金融機関向けに出版事業、通信教育、eラーニング、講師派遣といった事業を行っています。提供の仕方は主に直販で、メガバンクをはじめ、信用金庫や証券会社などにもサービスを提供しています。

 その中で、出版事業は3割程度ですが、取次・書店ルートよりも直販の方が多いです。その直販において、このPODを利用できます。

 究極的には在庫無しの経営を目指すことは当然のことです。そのためにはPODをやらなければならないと思っていますが、当面の目的は、在庫切れによる機会損失の防止、テストマーケティング、既存コンテンツの利用などです。

 例えば、当社はデータ商品として銀行内のマニュアル書を提供していますが、改訂・更新サイクルの早い商品や、利用する人数が限られている場合などにPODを利用できると感じています。

◇PODはテストマーケティングに最適◇

 昨年4月に織田恭一『手形法・小切手法』という本をアマゾンのPODで出しました。カバーなし、希望小売価格2400円に設定しましたがあまり利益は残りません。

 しかし、テストマーケティングには最適だと思いました。通信講座のテキストをこの形で購入していただけば、最初に大量に作る必要はなく、数が出るようなら自社で製作することもできます。また、読者対象や販売タイミング、発行部数などの販売・販促の予測に役立てることもできます。

◇eラーニングも手元に残る“物”が必要◇

 PODは在庫僅少本の再版にも利用できます。坪井良平『梵鐘と古文化』という本は、デジタル・オンデマンド出版センター(DOD出版センター)で、四六・上製本からA5版並製のPOD版を作成しましたが、クオリティーは悪くありませんでした。

 カバーなし並製、スミ1色、使用紙限定、判型限定という制約はありましたが、それらは仕方がないと思っています。

 通信教育はテキストと添削課題があって、学習期間が決まっています。eラーニングですと、一時の記憶と学習記録は残りますが、復習できる“物”が残りません。勉強が修了して合格点に達したとしても、それだけでは不安に思う方がいらっしゃいます。そうすると、紙の書籍や電子書籍など手元に残る“物”が必要になります。

 通信教育の教材は、法律改正や税制改正などによってかなり変わりますし、銀行のマニュアルも半年に1回ぐらいで変わります。そういうケースではPODは使いやすいと感じています。

 通常の書籍に比べてカバーがなかったり、判型が違ったりと、仕様が異なってくるので、同じ内容でも別のISBNコードが必要になるごともあり得るので、最終的にはPODから始めればいろいろなことがやりやすいと思います。

 書籍、POD、電子書籍、eラーニング、データ商品という流れの中で、電子書籍とPODは関連づけやすいと思います。ただ、販売する場合には配送といった課題もあるので、製作・流通を外でやっていただけるところがあればお任せしたいと考えています。

◇◇山梨日日新聞社◇◇ ■大森真樹氏(山梨日日新聞社)

◇電子書籍・POD・自費出版で「3本の矢」に◇

 当社は2013年12月から電子書籍事業に着手し、「山日eライブラリー」として9アイテムを制作しています。電子書籍は紙の書籍に比べ、製作費が安く、販路の拡大や在庫リスクがないなどのメリットがあるものの、地方では紙媒体への依存度が高く、売れ行きはいまひとつでした。

 そんな頃、DOD出版センターの「デジタル・オンデマンドブック」の情況を聞き、電子書籍とPODを車の両輪にして事業を成り立たせることはできないかと考えました。

 これまで刊行した電子書籍はフィックス型とリフロー型のEPUBを関連会社のサンニチ印刷が作成しました。POD化したのは新聞紙面で連載し、電子書籍化した『フォーカスやまなし』の上巻です。

 電子書籍の先行制作により、POD版は校正などの作業を簡略化し、約2カ月という短期間で作成し・昨年5月末に150部作成しました。185ページで、製作費は1冊約700円と安価。本体価格は1800円としたため、通常のオフセット印刷より利益率は大きくなりました。出来上がりを見た時、「この原価でこの品質は素晴らしい」というのが第1印象でした。

 今回のPOD本は、ISBNコードなどを付けない非流通本として、特定の団体のみに約80冊販売したほか、昨年7月の東京国際ブックフェアに出展したDOD出版センターのブースでも展示・販売してみました。

◇自費出版への活用◇

 当社規模の地方新聞社では事業を安定させるために自費出版が不可欠となっています。本来数十冊程度の小ロットで力を発揮するPOD版を150冊作成したのは、POD印刷による自費出版のニーズが伸ばせないかと考え、自費出版のユーザーにサンプルとして提示できるよう、多めに印刷したのです。

 自費出版の問い合わせは、年間十数件に及びますが、オフセット印刷で作成すると、100冊程度のロットで制作単価が100万円単位になってしまい、成約に結び付かないケースがありました。

 自費出版の場合、30冊程度でよいというケースも多く、今回のPOD版なら品質が良い上、見積金額が2桁で済むと思われ、受注に結び付くケースが高まるのではないかと期待しています。

 また、当社では、昨年9月、自費出版のニーズを掘り起こそうと『自分史づくりきっかけノート』(本体200円)を発行し、予想を上回る売れ行きで、自費出版に関する問い合わせも増えています。こうしたノートとPODをセットにしてユーザーに提案していくことも一つの手段になると考えています。

 書籍・雑誌の市場が縮小する一方で、電子書籍の市場は着実に伸びているといわれます。

 ただ、地方における電子書籍の普及はまだまだ未発達で、当社としては当初、電子書籍との車の両輪を目指して行ったPOD版の制作でしたが、これに自費出版事業を取り込むことで、「3本の矢」とした戦略が展開できるのではないかと考えています。

 さらに、PODの可能性は自費出版にとどまらないと思います。例えば、小中学校の卒業文集、俳句・短歌団体の選句集などにもニーズがあると思います。

 今後の課題は「プリントオンデマンド」の概念をいかにユーザーに周知していくかです。

 安価な印刷が可能であるPODは大きな可能性を秘めていると考えます。出版業界がPODに関する認識をさらに深め、ユーザーに伝えていくことで、「紙の持つ魅力」や「紙の文化」を守っていければと思います。

◇◇光和コンピューター◇◇ ■浴野英生氏(光和コンピューター)

◇協業サプライチェーン 「DOD出版センター」◇

 DOD出版センターの大きな特色は協業のサプライチェーンです。事務局とシステム開発は光和コンピューター、印刷製本は複数の印刷会社に発注します。オープンなシステムなので、今後協力印刷会社は増えていくと考えています。

 協力印刷会社は認証制を取っており、どの出力デバイスでも対応します。そのレベリングの調整や振り分けはSCREENグループが行い、ロール紙のインクジェットの他、トナ一PODなどにも対応しています。

 また、コスト削減のため仕様の標準化やサーバーでのWEB入稿、WEB校正、納品データのダウンロード、データの保管管理も行っています。

◇重版率の高さが特徴に◇

 昨年7月から重版を含め39点2270冊制作しています。特徴的なのは重版率の高さです。中でも日本教文社は18点申6点重版しています。

 重版率の高さは、ショートランの発注が30部からとごく少量なことと、出版社の営業の姿勢に理由があると考えています。

 ロール紙のジョブギャンギングなどによって、当初50部以上だったロットを30部以上とし、さらに少部数を目指しています。

 また、本ができる前から日本出版インフラセンター(JPO)「近刊情報センター」に書誌登録し、納品後は、取次に新刊見本登録をすることで、オンデマンド本が流通できる本として書店や読者に伝わり、ネット書店をはじめ一般の書店でも販売できるようになります。

 日本教文社は1952年から60年代にかけて発行した名著をリメイクしました。原本は布張り箱入りという重厚なものを、A5判並製、カバ一・帯・スリップなしの標準仕様でリメイクしました。

 価格は260~440㌻で2300~4300円。ページ単価が約10円という値付けは、小部数の翻訳本としては標準的だと思います。

 出版社は、復刻として全く同じものを作ろうとしがちですが、日本教文社は、読者が読めることを優先したのだと思います。

 第1期として8月に刊行した『フロイド選集17自らを語る』は63年ぶりの刊行だそうですが、初回の50冊が半年かからずに売り切れ、1月に追加の50冊を納品しました。

 一般的に出版社は、重版時の原価率は売り切ることを前提に計算しますので、1000部作って・500部しか売れなかったら原価率も上がり、倉庫代、返品手数料、断裁費用などがオンされます。実売予測を低く見積もる担当者はいないと思われるので、そこが崩れたら原価計算が成り立たないということも考えていただきたいと思います。

◇本気の営業活動で眠っている財産を活かせる◇

 日本教文社が行ったことは、①自社ホームページでの特設ページ作成 ②アマゾンのベンダーセントラルで書誌情報を充実 ③パンフレットの作成、配布 ④八重洲ブックセンターでのフェアなどリアル書店での販促 ⑤業界紙への情報提供・・・です。

 これまでのDOD出版センターでの約半年間の活動で感じたことは、本気で営業活動に取り組めば、出版社に眠っている財産を活かすことはまだまだできるはずだということです。むしろ手を付けていないところだとも感じました。

 また、1社だけではなかなかできないことも、志を同じくする会社が協力して、出版社や取次、書店、読者にオアピールしてオンデマンド出版の市場を広げることが、まずは重要ではないかと考えています。