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事例紹介

Case

出版システム学参系出版

世界思想社教学社
「赤本」を半年で600点刊行
独特な出版形態に対応したシステムを開発

新聞記事の内容《PDF》 A4資料《PDF》

出版ERPシステム
(取次・販売、印税・支払、書店情報管理)
世界思想社教学社様(文化通信bBB 2015/3/30 掲載)

株式会社 世界思想社教学社

所在地 〒606-0031  京都市左京区岩倉南桑原町56
資本金 1000万円
代表者 上原寿明
従業員数 46人
電 話 075-721-6500(代表)

 学術専門書や教養書の出版を手がける「世界思想社」と、赤本をはじめ大学入試の過去問題集を手がける「教学社」という二つのブランドを持つ世界思想社教学社。1948年に学術書出版社として創業し、1951年には教育図書の出版部門として教学社を併設、高校の副読本などの出版を始めた。1954年に「大学入試シリーズ」、いわゆる「赤本」の刊行をスタートし、1969年に現商号で法人改組した。このほど新システムを導入したことで、出荷業務の外部委託化などを実現し、業務効率を高めている。

「世界思想社」「教学社」の2ブランドを展開

 世界思想社は学術専門書や一般教養書などを年間30~40点刊行。中でも「世界思想ゼミナール」は今年1月時点で刊行点数560点、「学ぶ人のために」は同270点と、いずれも大学の教科書として好評を得ているシリーズで、そのほか近年は単行本の出版にも力を入れている。最近は話題書として、『オランダ流ワーク・ライフ・バランス-「人生のラッシュアワー」を生き抜く人々の技法』(中谷文美、本体2800円)や、『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』(鈴木裕之、本体2200円)などがマスコミ等で取り上げられ、注目が高まっている。

「赤本」発行60年余の信頼

 「赤本」の呼び名で知られる「大学入試シリーズ」は昨年度、発行60周年を迎えた。1954年に「京大」「市立大・神大入試」「同志社・立命館入試」の3点から刊行が始まり、1971年に300点、1990年に500点を突破。2015年版は北海道から沖縄まで全都道府県の374大学をカバーし、「センター赤本」「難関校過去問」「赤本ポケット」など8シリーズに「赤本手帳」といった単行本を含め約600点を刊行した。

 同社営業部の青木庸敬マネージャーは、「もともと受験生の少ない大学用は印刷できる冊数が少なく、採算面は厳しい。しかし、少数でもその大学を目指す受験生がいるのであれば、企業の社会的使命としてラインナップを揃えています。そうした取組みが受験生や出版業界から受ける信頼のブランドにつながっているのでは」と分析する。

 なお、同社では赤本発行60周年を記念して、1954年発行の赤本創刊号を探すプロジェクトを進めているが、まだ発見されていないという。

多様な開発実績が選定の決め手

 同社は従来、オフコンによる管理システムを利用していた。しかし、データのインプット・アウトプットや字数の制限など利便性が悪く、「システムに限界を感じ、そこから脱却したい」(同社・朝加忠嗣営業部マネージャー)とパソコンシステムの開発を複数の企業に打診した。

 しかし、一般的なシステム会社では、出版業界の特殊な取引事情を把握せずに市販のデータベースソフトをカスタマイズする程度の提案にとどまるケースが目立った。この結果、自然な流れとして出版社のシステム開発を専門とする2企業に絞られ、最終的に光和コンピューターを選んだ。

 導入したのは取次・直販販売管理システムと印税・支払管理システム、書店情報管理システム。「私たち自身がシステム開発に直接かかわるのは初めて。出来上がりのイメージ、当社の業務に対して何ができるのか、どこまでできるのかが想像できないままスタートしました」と青木マネージャー。同社を選定したポイントは、出版社の業務に精通している点と、多くの開発事例を持ち、業務の特殊な流れまでくみ取り、それに対応できるシステムが開発できる点だったという。

想定を上回る開発の難しさ

 ただ、システムの開発は想定を上回る難しさがあった。

 システム会社の選定を終え、開発がスタートしたのが2010年11月。当初の見積もりでは開発期間は約半年とされたが、実際にシステムが稼働したのは2012年12月と、実に2年を要した。その背景には同社独特の出版事情があった。

 同社は毎年2月に入ると各大学に入試問題の提供を、また全国の高校や予備校の教員には解答や解説の執筆を依頼。赤本に掲載する問題文章の著作権者確認や掲載の許可申請などを経て5月頃から順次出荷が始まる。そこからわずか約半年間で約600点もの「赤本」関連出版物が店頭や大学に送り出される。

 同社と光和コンピューターが打ち合わせを重ねるごとに、出版社のなかでも特殊な仕事の流れであることがわかり、「結果的に当社用に一から開発していただいたようになった」と青木マネージャー。しかし一方で、多くの開発実績があるだけに、社員がそれまで気が付かなかった業務の無駄な点について、「これとこの帳票は同じことをやっているのでは?」などと指摘を受けたという。「従来システムの流用ではこのシステムは絶対できなかった。結果として光和さんという選択しかなかったとわかった」と振り返る。

出荷のアウトソーシングも実現

 想定を上回ったのは開発期間だけではなかった。「もう一つ大きかったのは、出荷作業のアウトソーシングができるようになった点」と朝加マネージャーは説明する。従来は毎日、宇治市にある倉庫から本を届けて、本社から出荷していたが、繁忙期にはさばききれない状況に陥っていた。

 しかし、新システムを導入することによってリアルタイムで在庫管理ができ、完全に外部倉庫に出荷を委託できるようになった。さらに、オフコンではできなかったデータの蓄積によってどこの地域でどれだけ売れているのかの分析も可能になり、「アウトソーシングのシステムと時間ができ、効果が出ている。また、オフコンから脱却することで、これまで手書きや表計算ソフト、データベースソフトなど各自各部署で管理していたデータが集約できたことがありがたい」と朝加マネージャーは導入の効果を説明する。

 稼働後も細かなアップデートを続けており、青木マネージャーは「光和さんの担当者から、版元と書店、取次と書店との関係など業界の知識や情報について適時適切なアドバイスをいただける。そうしたやり取りが成り立っているところが非常に大きい。フォローをしてくれる人を含めてのシステムと認識しています」と、満足感を表している。