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事例紹介

Case

セミナー / 対談

光和コンピューター
第21回光和出版セミナー(第二部)
専門書をどう売っていくか? システムの活用

出版システム活用の実際
~構造的不況化の出版経営改革~

構造的不況下の出版経営改革のため、弊社で開発した「出版ERPシステム」を実際にお使いいただいている出版社の方々にシステム活用の有効性をお聞きするセミナー(出版システム活用の実際)を開催しました。
そのときの対談内容を掲載させていただきます。配布資料を参考にご覧ください。

第二部 専門書をどう売って行くか! システムの活用

開 催 日 平成21年11月18日(水)
時   間 午後1:30~4:30(受付開始午後1時~)
定   員 50名
会   場 日本出版クラブ会館
東京都新宿区袋町6(tel:03-3267-6111 )

弊社 専務取締役 寺川光男

みすず書房 代表取締役 持谷寿夫様

「文化通信社」(2008年7月28日掲載)の記事はこちら

商   号 株式会社みすず書房
設   立 1947年9月1日
本社所在地 〒113-0033 東京都文京区本郷5-32-21
代 表 者 代表取締役社長  持谷 寿夫
資 本 金 10,000千円
事業の内容 書籍・雑誌の発行及び販売業務
従 業 員 20名(平成21年3月31日現在)
寺川  みすず書房様は1947年設立という事で、今は専門書という言われ方をしますが、教養書としての歴史があり、教養書としての地位を不動のものに確立されている版元さんだと思っております。持谷社長は、営業・編集・制作を経験されて、今年代表取締役にご就任されまた。『経営トップになると風景が変わると』一般的によく言われたりしますが、社長の立場で如何でしょうか。
持谷  風景が変わるというのは確かにその通りで、今まで営業で色々な場所を歩いていても、書店さんしか気がつかなかったのが、今は印刷屋さんや業者の方の事務所とか工場が気になるという見え方もしています。同じ場所を見ていてもずいぶん違うなというのは実感です。
 では、私どもがどういう出版社か少しお話します。今年で創業64年、私は入社34年になりましたから、前半の30年はわかりませんが、以後はかなりの部分、現在に至るまで勤めてきました。出版物は、人文書とよばれるジャンルの刊行が主です。みすず書房の特徴は、既刊書=ロングセラーが社の売り上げの大きな部分を占めているところにあります。私の入社当時は、既刊書と新刊書の売上バランスは、既刊書7新刊書3でした。現在はこのバランスが新刊に傾いていて、既刊書5新刊書5ぐらいの所まで来ています。当時に比べ、全体のパイが下がってますから、売上自体も毎年伸びるという訳には行かないので、ますます既刊書の売上が下がり、新刊の占有が高くなっているなというのが実感です。既刊書の売り上げに関しては自社の努力で改善できる部分と出来ない部分があるものですから、現在は新刊書を出来る限り活性化させ、それによって既刊書を牽引するという姿勢で臨んでいます。
寺川  みすず書房様でお使いいただいているシステムの概要図という事で記載させて頂きました。販売管理関係では、定期購読、取次ルート、非取次の販売管理、出版VAN、WEB受注、となります。それからPOS分析という事で、書店情報管理、印税原稿料支払管理。それに原価管理システムとなります。
 これが、みすず書房様の「ERPシステム」ですが、特色は次のシステム構成に記載させて頂きました。基幹系、勘定系のシステムとして、「販売管理システム」、これは取次ルート、直販ルートの管理システムです。それから、「出版VANシステム」です。それに、「原価管理システム」と「印税原稿料支払管理システム」、以上の4つの勘定系のシステムを私どもで構築させて頂ました。
 この中で実は肝になっていますのは営業部さんです。自社で営業部で必要なシステムをACCESSでEUC(エンドユーザコンピューティング)の開発をされてきたという歴史がございます。したがって、勘定系基幹系の部分は弊社のシステムを使って、そのシステムのデータをダウンロードし、社内における営業部が必要なものは全て社内で構築をされてきた歴史があります。私どものシステムから、営業部で必要なデータは何かを意識をしながら勘定系でシステムを構築し、データをダウンロード出来るシステムになっています。
 これからお話いただくポイントとして、ひとつは「フロム・ヘル」刊行という事でプロモーションをしっかりやられて短期間で重版を重ねて来られたこと。それに「EUC(営業部サブシステム)」をどのような形で営業部内でデータを駆使し、経営戦略として役立たせているか。それから、「新刊配本」です。専門的な教養書としてどのような形で書店さんとお付き合いをし、新刊の配本をされているのか。そして、「常備検討」です。版元さんによっては常備をやっている意味はないといわれる所もありますが、どのような型で常備を展開されているか。また、「重版検討」という事で、ロングセラー本の重版検討をどのようなタイミングでどのようなデータに基づいて意思決定されているか。また、そのロットはどのように決めているのかをお聞きしたいと思います。
 まずは、「フロム・ヘル」刊行についてです。これは先月(10月10日)、刊行されたコミックです。上下巻それぞれ2600円で現在3刷りで8000部。1ヶ月強で重版刊行されています。朝日新聞や毎日新聞の書評でも取り上げられております。この辺のマーケティングあるいはプロモーションをどのような形で展開されてきたのかお聞きしたいと思います。
持谷  8000部が多いのか少ないのかよく分かりませんが、(注 2010年1月現在 各12000部)私の所では大健闘と評価しています。「みすず書房がコミックを刊行」という文脈のなかで話題になることが多かったのですが、やはり、企画提案をはじめて聞いたときは「大丈夫かな」という思いが先にたったのは事実でした。担当編集者がこの企画は大きな潜在力を持っているという事を熱く語ってくれましたが、なかなか理解できませんでした。それでも、新企画決定会議では皆積極的で、消極的なのは私だけだったのかもしれませんが、みすず書房として刊行しようと決定し、すすめた訳です。この本に関してはコミックファンを中心に固定的な読者の存在は分かりましたが、その読者に対して、どのような形で発信して行くのかという議論からはじめ、それに沿ったプロモーション活動をスタートさせました。
 コミックですから当然、画像や絵が重要になっている。そのときに一番伝えやすい手段として考えたのが、「fromhell.jp」というサイトの立ち上げでした。映画の予告編にあたる、トレーラも作りました。このトレーラーを7月に行われた東京国際ブックフェア用にという事で急遽作成し公開しました。その後、翻訳者の方からの情報発信も含めて、この「fromhell.jp」を基にして情報を発信つづけ、これが成果に結びつきました。
 最終の部数定価決定では初版の制作数を当初予定の3000部から4000部にしました。本体価格各各2600円はコミックとしては高価でしたが、価格を下げるためには、発行数を多くしなければならず、危険が多すぎると判断していました。ただ、事前のプロモーションにより初版の発行数を上げる事が出来、何もしないでいたらこのような展開はなかったと思います。
 もうひとつ、必要だったのはプロモーションに要する時間でした。通常はすぐに刊行流通させてしまうところ、これは出来てから1ヶ月以上間隔を開けました。その間に、特製の図書カードを作って、予約者にプレゼントをするといったような手を打ちました。編集者の熱意と携わる翻訳者の助けは当然ありました。これを含めて、今言ったような、事前の状況を作ることが出来たことで、一定以上の成果を収めることが出来たし、質の面からも高い評価を頂いております。
 どの書籍に対してもこのようなプロモーションが可能かどうかはわかりませんが、私とすれば本によってはある核を作り、基盤となる読者層が見えるとすれば、そこに働きかけていくというのが有効だと、今回の経験で得ることができました。また、次の機会にも試みてみたいと考えています。
寺川  今のみすず書房様が年間80点ぐらい刊行されている中、このように製作即発売しない刊行物は毎年何点かあるのでしょうか。
持谷  増やしたいと思っているのですが、なかなか刊行時期が確定しないというのが多いものですから、プロモーション主導でやるというのは非常に難しいですね。一番の課題は、「新刊の進行管理」がきちんと行われているかどうかという事が事前のプロモーションも含めて最も大事なことかと思います。新刊進行管理がきちんと出来るかがすべての基本になります。
寺川  お聞きした話で今回このような形でプロモーションが成功される中で、編集者、営業、業者の方々のモチベーションが非常に上がったという事がお話をお聞きして大変すばらしいことと思いました。
 次に、営業部でお使いの「EUC(営業部サブシステム)」でございます。私どもも約200社の版元様に色々なシステムを提供させていただいておりますが、版元さんの中にどのような位置づけで情報システム部があるべきなのかを私どもからご提案をしたりしていますが、どちらかというと、専門業者に任せた方がいいのだとのお考えが比較的多いように思います。その中で、営業部の中で自らACCESSを使ってシステムをお作りになったという事です。
 具体的には、営業部サブシステムとして「書店管理」、それに「新刊管理」という事で、新刊の受注もやっています。あと、配本の資料も作っています。また、スリップの登録やその他様々なトランザクションデータを取り込んでいます。それから、「定期管理」という事で、定期刊行物の受注管理、そのほか、「在庫管理」など営業部で必要なデータは基幹システムから持ってきて活用(分析)するというシステムで構築をされております。
 新刊配本、新刊実績という事で、地区別分析、チェーン店物分析、書店別書籍別分析をされています。これは、どのようにお使いなのかをお聞かせください。
持谷  光和さんとは2001年からお付き合い頂き親身になってやっていただいております。私が一番望んだことは、様々なデータを現場レベルで取り込んで個々の要求に応じたリストを作りたいということでした。当然、すべてのスタッフが出来る訳ではないが、意欲をもった人たちには利用できるデータを提供し、判断材料として活用したいという要求がありました。効率が悪く時間ばかり掛かってしまう事も危険性としてはありますので、メインになるシステムが必要だとは感じていました。そこで開発されたのが「EUC(営業部サブシステム)」です。
 各書店様の実績を、新刊重版や常備の選定にで活用すると同時に、個別の単品分析や読者管理に基づいた書店への適正な配本がどれだけ出来るかを常に考えているという事があります。今から40年位前から手作業で売上スリップデータを分析することはやっておりました。
 販売された書籍の単品分析と同時に購読者管理も今でも行っております。購読者管理は2万5千件ぐらい保持している愛読者カードの分析を頻繁に行って、どの地域にどのくらいの人文書の中核になる読者がいるのかを見ていきます。嘗ては、ある特定の地域にある一定以上の読者層がみえれば、その地域の協力店で自社の本を買ってもらうという流れを作ろうとしていました。今、ネット書店が多く、そういう読者と本との出会いが地域を越えて行われるようになったので、有効性を持たなくなりました。いずれにせよ、全体の中でのバランスを大事にしながら本を送っていこう、それが結果として返品の抑制にもなるし、無駄な重版を作らないような事になるという発想で始めてます。
 この表も典型的ですね。神田の神保町という地区、色々な分野の中でどういうような書店がどういうような特徴を発揮しているか、というのを見ていっています。それから、法人別とかというのは、ほかの多くの社もやっておられますね。こうしたリストを見る場合に、常に気を付けていることですが、上位のものしか見ないという傾向を排除できるかも大きな課題だと思っています。特に、ロングセラーとしなければならない出版社が何を重版し在庫し続けるかを考えたときにも、画面に出てくるものは誰でも見られる訳ですが、画面の下、もしくはその画面からはとらえられないものをどうやってみていくのかを考え続けなければなりません。
寺川  みすず書房様は今年の10月にお亡くなりになられた元取締営業部長の相田良雄さん(享年84才)がスリップ集計をし書店における実売を把握していくという事は、P-NETであったり、共有書店マスターの普及以前に、社内的にはずーっと継続的にやって来たという事でございますかね。
持谷  幸いなことに、現在でも変わりませんが私どもの書籍を扱って下さる書店さんとは非常に友好的な関係をつくれていました。ですから、スリップの回収もお願いすればかなりの率で回収出来ていましたし、逆の言い方をすれば、スリップの回収・分析をし結果を報告することによってさらに強固な関係を継続できたのかもしれません。もちろん、私どもの刊行書が少ないとはいえ読者に支持され続けるというのが前提なのには変わりはありませんが。
寺川  当時みすず書房様がやられていた実売分析を筑摩書房様でもやられるようになったとお聞きしています。そういう意味では、みすず書房様は歴史的に書店さんとのつながり、読者とのつながりというものが、非常にポイントになったという事ですね。
持谷  そうですね。
寺川  私どもシステム屋としましては、『このPOS分析の中で同規模店の分析をしないのですか』というご質問を取材のときにさせて頂ました。『当然、たとえば紀伊國屋本店では売れている、ジュンク堂新宿店では売れていない、では売れる為にはどうすればという事で同規模店、同一地域店別の分析が必要ではないですか』と申し上げたら持谷さんから、『読者は書店とつながっているんだ』というお話をお聞きしました。当然これはみすず書房様の書籍の特性はあろうかと思うのですがその辺は如何でしょうか。
持谷  先ほどの、読者分析などを見ても分かるように、私どものような本はどこの書店で買うのかを習慣としているお客さんが多かったという事実があります。やはり継続して展示していこうという意欲が最大のポイントになります。
 面積の関係で新刊を中心として売るお店は当然ありますが、私どもの基本的な考え方として、ロングセラーを含めた所のボリュームとしてある程度やっていただくことが前提だと思っていますから、そうすると、同規模店との比較でお勧めするというよりも、私の所はあなたの店舗にこれだけお客さんがいるので、その期待にこたえるためにはこれだけの展示をお願いしたい、という勧め方が妥当かと思っています。毎年全国の何店舗かで私どものブックフェアをやっていただいていますが、それはおおむね好成績を上げています。これは、読者とその書店との関係が作れているというのを的確にあらわしています。「あそこに行けば、毎年やっている」とか、「あそこには必ずあるんだ」「もし、なくても注文できるんだ」とったの信頼関係がつくれているし、その関係性を大事にしながら、こちらとしては、書店さんに対して、サポートしていくというのを基本に考えているというのがあります。
寺川  ありがとうございます。次に、新刊の配本部数の適正化という事でございます。どのような形で何を持って適正化をするかという事で、受注活動に力を入れておられるという印象を受けているのですが如何ですか。
持谷  お手元に、新刊配本に関しての資料があります。これを受注のベースのツールとして使っております。どういう資料かというと、私どもは配本数の90%以上を、個々の書店さんからの受注配本という形で行っています。すでに40年以上の実績があります。これを書店さんに送り、自店での必要部数を記入してもらう、これをコミュニケーションツールとしています。申し込み数を記入してもらったのを受けて、営業部で調整をかけて決定する事になりますが、そのときに過去の実績データを参考にし、精度をあげようとしているのがこの新刊配本部数の適正化の表です。
 私どもで出した過去の関連する書籍がこれだけの数売れていて、貴店の申込はこの数というのは、いかがなものでしょうかというものをみようとしていく表です。この資料どおりに行えれば、かなりの部分での適正配本は出来ると思っています。
 私どもは専門性の強い出版物と多く出しているので、たとえば大学生協さんであるような所については、ある一定以上の部数を出しています。それであっても、中々担当者の方が全部目配りする訳に行かないので、こちら側から提案してあげる必要があるという事でもあります。例えば、大学生協で一番大きな東京大学生協店本郷店はかつて初版発行数の1%は実売出来ていたという実績があり、そのためには初回の配本数は、どのくらい必要なのかというようなやり取りをしながらやって来ました。そのような話し合いの中から生まれて来たといえます。
寺川  次に、「常備店の検討」です。年間100冊以上売れたお店に常備案内をお送りするという事だったと思いますが。
持谷  そうです。基本的に100冊を最下限のラインにしています。新刊の重版検討は後でお話しますが、既刊書を売る為の施策としての常備は現在悩ましい所があります。既刊書を売る為には、常備という仕組みはどうしても中心に置かざるを得ないと認識していますが、ただその運用が難しくなってきて、かつてほど回転しなくなって来たというのは専門書系の出版社としては辛い所です。先程、100冊の販売実績といいましたが、おそらく常備を運用しようとするとき、書店様と出版社の両者の利益の合致する下限の販売実績だと思います。一番基本的なセットが33冊で、アバウト3回転、というのがひとつの基準になっていたのかなと思います。
 常備のセット数は13セット、書店さんと、銘柄の組み合わせですので、すべて効率的だけというわけにはいかない。プラスアルファした商品をどうやって送るかという事も、毎年課題になっています。常備の更新は更新時期に取次さん主導ではなく、私どもがダイレクトにやります。
寺川  みすず書房様も当然、常備セットをどう組むか、その書店さんをどう絞るか、という事は完全に版元さん指導型で、当然ですけど取次ぎの協力を頂くという事だろうと思っています。常備店の検討という事で、常備セットを販売実績から見てどうするかという話があり、その一方で、次のページに「常備アイテムの検討」、どのような形でお使いでしょうか。
持谷  常備の回転率を上げて行かなければならないという前提で、どの銘柄をどのセットとに入れてどの書店さんに送り込むか、という複雑な組み合わせを考えていく必要があります。当然、回転率の低いもの送るという事は出来ないので、例え在庫があっても、それは常備から銘柄と指定する事はしないことを前提としています。 常備の時期になると、ある一定以上の在庫が必要になってきます。その為には重版をかけなければならない。この負担を出来るだけ抑える為に、2月5月の更新時期にどのタイミングで重版をかけていくかを事前に計画的に考えています。常備出庫の為だけの重版はしたくないので、どういう基準で考えていくのか、既刊書が70%の売上を持っている時代は重版をかけるのは止むを得ないが、今はそれが出来ないので、このタイミングにこれだけやっておけば足りるだろうとか、もう少し待ち、取り置きしてやっていくのも必要だろうという事を検討して銘柄選定をしています。
寺川  例えば在庫が6冊、それが常備セットの中でどう位置付くかはありますが、ここに「重版希望」と書かれていますが、これはどのようなことでしょうか。
持谷  2つ意味があって、重版した方が良いという事も当然出てきますが、どのタイミングでやるかという事もあります。だから、難しい所ですが、色々な要素が絡んで来るので、常時在庫していてもいいだろうというのと、一定以上品切れにしていても大丈夫だろう、という見極めを付けていかなければいけません。
 ただ、苦労しているのは、今開示している在庫表示です。この在庫表示がとても厄介で、実は取り置きしている在庫はあるんだが使えないから品切れにしておく、といったような苦心をしています。
寺川  人為的な判断あるいは決意が必要だという事でしょうかね。
 この中で、常備セットをどうするか、あるいは重版をかけるか、という事を含めて次に「重版検討」という事になるかと思います。「重版検討」という事では、各書誌ごとの現在在庫数や年間の出庫数、4ヶ月の出庫数、月予測、推定在庫、などを算出し検討し、保留にするとか重版を決定するとか、という形でタイミングを見ながら重版あるいは復刊の検討をされていると聞いております。この、重版検討会議は定期的にやられているのですか。
持谷  これは定期的にやっています。直接的にこの資料には出てきませんが、返品をどう読み込んでいくのも重要なのです。システム化できないのでとても苦労しています。返品は返って来たのをシステムに入力し、はじめて数字が出てくるという遅れた状態です。そうすると何を見る必要があるかといえば、在庫の推移、月ごとの在庫の推移を見て行くことにより、トレンドを見るという事になります。返品のデータをもっと活用すると重版の時期および部数などの精度が高まって行くと思います。
寺川  書店さんのPOSの返品データが版元さんに直に来るような仕組みが出来て来ると返品や市場在庫だとかが分かりやすくなるという事ですね。
持谷  販売データは取れるようになっていますが、返品データはどういう風に利用するかも大きな問題です。ただ、もう少し早いタイミングで、自社のシステムに取り込みたいというのは実感です。余談ですが、私の30以上の営業生活のかなりの部分は返品との戦いだったといっても過言ではありません。今は、返品と、それを検証する仕組みがほしいとも思っています。
寺川  色々な他業界の中では、サプライチェーンマネジメントいうからには、当然ですが、納品、返品、市場在庫がメーカ自ら見れるし、メーカの在庫も見れるという仕組みが当たり前です。出版業界でも先々要求されて来るべきだ、とお話を聞きながら思いました。
 次に、「重版検討」の中での書店別売行・実売等の推移という事で2ページの資料を掲げさせて頂ました。P-NETに関しては月次ですね。
持谷  月次です。新刊重版はもっとリアルな、例えばPUBLINEであるとか日販さんのトリプルウインなどで判定しながら、パブリシティの状況、広告の出方、という物を考えながら、どのぐらいの部数でいくか、私の所では5日で本が出来ることはあり得ないので、その辺の所も読み込みながらやっているという事です。
 例1は新刊ではこういう風になっていたという実績を見せています。送ったものに対しての実売率がいくらぐらいかを見れるし、その実売率がある程度一定のものは安心して重版しても大丈夫だと判断します。
寺川  例2がロングセラー本ですね。
持谷  ロングセラーは当然ですが、ある一定以上の数字を常に示してくれているという、出版社にとっては大変貴重な銘柄です。
 だから、これをどういうタイミングでどうやって行けば良いか、その時に何がこういう様な状況があったのかを書店別に見ていっている表です。この「野生の思考」は分かりやすい本だったので、数がなくなったときに重版をかければ良いといった傾向です。もう少し、ある理由があって売れたけれどもその要因が消えた時どうなるか分からない時、予測をしなければいけないものについては議論が必要です。
寺川  実売で言うと、POS未導入店の数字、あるいはネット書店さんの数字もここには反映していないという事ですね。
持谷  その辺は推測でやっています。何処まで精度を高める必要があるのかは中々微妙な所です。 また、光和さんにお願いしている「原価管理システム」も重要視しています。目指すところは統合されたシステムと個々のニーズに合わせたサブシステムの融合です。
寺川  本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。